当施設では、受診者の皆さまにより安心して健診を受けて いただけるよう、胸部X線検査の精度向上に継続して取り組 んでいます。その一環として、2022年10月から県内の健 診機関に先駆けて、胸部X線画像の診断を支援するAI画像解 析ソフトウェアの運用を開始しました。 このAIは、肺がんの発見に役立つ「肺結節(肺の中に写る 小さな影)」の可能性がある部分を検出し、画像上に枠で示 します。胸部X線は肋骨や心臓などの影が重なり、小さな変 化が見えにくいことがあります。AIという“もう一つの視点” が加わることで、読影の精度向上につながることが期待され ます。 導入までの道のりは決して短いものではありませんでした。 2019年頃から、読影を助ける各種ソフトウェアを比較検 討し、骨の影を抑えて見えやすくする画像処理や、過去画像 との差を強調する仕組みなども候補に挙がりました。そんな 折、学会の機器展示で「胸部X線画像から所見を抽出するAI が薬事承認を得て製品化される」と知ったことが大きな転機 となり、メーカーへ連絡したことから検討が一気に進みまし た。 当時は胸部X線AIがまだ一般的ではなく、「本当に役に立 つのだろうか」という思いもありました。そこで肺がん症例 画像を用いてテスト検証を行い、振り返りで異常が確認でき る画像でも、AIの指摘が確認できることを確かめました。検 討期間中にはバージョンアップも重ねられ、以前は検出でき なかった症例が拾えるようになるなど、AIが学習を通じて精 度を高めていく将来性も導入の後押しとなりました。 さらに、検討が本格化した2020年頃は新型コロナウイル ス感染症の流行により、対面での打ち合わせが難しい時期で した。オンライン会議も手探りでしたが、関係者と丁寧にす り合わせを重ねながら準備を進めた経験は、結果として私た ちの業務の進め方を広げる学びにもなりました。通常であれ ば途中で一度は顔を合わせる場面があるところ、当時はそれ が叶わず、設置日まで担当者と直接お会いできないまま進ん だことは、今振り返っても異例の状況だったと感じます。だ からこそ、導入当日に初めて対面した瞬間は、これまで画面 越しに積み重ねてきたやり取りが現場でようやく形になった ように感じ、とても印象深い出来事でした。 健診施設ならではの課題は「時間」と「件数」です。人間ドッ クと出張型健診では流れや必要なスピードが異なるため、解 析用PCを用途別に分け、出張型健診では1日最大約1,700 件の処理に間に合うよう2台構成で並列処理としました。そ の結果、翌日の読影に間に合う処理体制を確保できました。 さらに、こうした大量処理を前提とすると、AI結果を表示す るために解析結果画像が1枚追加され、保存容量の増加が課 題となりました。そこで、解析結果画像を圧縮して出力でき るよう調整し、サーバー容量への負担を抑えました。 読影環境の整備も重要です。施設内で読影する医師だけで なく、USB媒体を用いて外部委託先で読影する医師も含め、 すべての読影医がAI結果を確認できる環境を整えました。読 影中もマウス操作でテンポよくAI画像へ切り替えられるよ う工夫し、負担を増やさず活用できる仕組みづくりを意識し ました。 健診は「結果を返して終わり」ではありません。精度を保 ち続けるためには、読影後の精度管理が欠かせません。当施 設では、精密検査の結果、原発性肺がんと確定診断された方 などを対象に追跡調査を行っています。加えて、レポートシ ステムの統計機能でAIの検出有無や検出数を検索・表示し、 CSVとして出力できるよう整備しました。これにより、確 定症例に対するAIの検出状況を確認しやすくなり、要精検 率、肺がん発見率、陽性反応適中度などの年度評価にもつな げています。 稼働後の印象として、肺の中で孤立して見える影の検出は 良好で、心臓の影や横隔膜、肋骨などと重なって確認しにく い部位でも一定の補助が得られていると感じています。一方 でAIにも得意・不得意があり、すべてを拾い上げることはで きません。稼働前に、検出しにくい特徴や偽陽性になりやす い所見を読影医と共有し、人とAIが補い合える運用を心がけ ました。実際に医師から「AIの指摘があったおかげでチェッ クできた症例もあった」との声もあり、導入の意義を実感し ています。 近年、AIは私たちの身近な技術となりつつあります。当施 設でも、胃内視鏡検査中に画像をリアルタイム解析して医師 を支援する技術や、AIを活用して低被ばくで高画質を目指す CT装置など、活用の幅が広がっています。今後も「より精 度の高い健診」を目指し、新しい技術を現場に取り入れなが ら、受診者の皆さまの健康を支える取り組みを続けてまいり ます。 (小澤 悠 記) 胸部 X 線 AI 読影支援システムの導入 ― より安心できる健診を目指して Tochigi Public Health Service Association 34 トピックス
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