先天性代謝異常症等検査

先天性代謝異常症等検査

 先天性の病気のなかには、生後早い時期に採血し検査することで診断できるものがあります。早期発見し治療することで、知能の障害や重い症状の発生を防止できるものがあり、このような取り組みは全国で行われています。

 

特徴

 栃木県内で出生したすべての新生児を対象に大切な検査を実施しています。対象疾患は、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症などの20疾患と、令和5年4月から重症複合免疫不全症と脊髄性筋萎縮症の2疾患が追加になり計22疾患です。
 なお、検査料は公費負担となっています。

 

検査項目

代謝異常症(栄養素の利用障害)対象18疾患

1.アミノ酸代謝異常症(5疾患)
 私たちの体では、食べ物から摂ったたんぱく質を消化・吸収してアミノ酸に分解します。アミノ酸はさらに代謝を受けいろいろな組織に運ばれて利用されますが、アミノ酸代謝異常症は、アミノ酸が代謝する過程で必要な酵素が生まれつき欠損していたり、うまく働かないためにおこる病気で、どのアミノ酸が代謝されないかによって病名が違います。この病気は放置すると知能や運動の発達が遅れたりしますが、早期に発見し治療を開始すれば発症を未然に防止することができます。検査はタンデムマス法により代謝されずに蓄積するアミノ酸を測定しています。
○フェニルケトン尿症
○メープルシロップ尿症
○ホモシスチン尿症
○シトルリン血症
○アルギニノコハク酸尿症

2.有機酸代謝異常症(7疾患)
 食べ物のたんぱく質が消化・吸収されアミノ酸に分解された後、さらに代謝が行われますが、その代謝に必要な酵素が無い、またはうまく働かないと有機酸という物質が体の中に蓄積してしまいます。この病気を有機酸代謝異常症といいます。有機酸が蓄積すると、哺乳不良、嘔吐を繰り返すなどの症状が見られます。発熱などで体調が悪い時に突然ぐったりしたり、発達や発育の遅れで発見される場合もあります。しかし、症状が出る前に早期に発見して治療し、管理を行えば発症を未然に防止することができます。検査はタンデムマス法により7つの病気を対象に行っています。
○メチルマロン酸血症
○プロピオン酸血症
○イソ吉草酸血症
○メチルクロトニルグリシン尿症
○ヒドロキシメチルグルタル酸血症(HMG血症)
○複合カルボキシラーゼ欠損症
○グルタル酸血症Ⅰ型

3.脂肪酸代謝異常症(5疾患)
 私たちは食事から栄養を摂りエネルギーとして利用しますが、体内に貯蔵した脂肪をエネルギーとして利用する場合があります。脂肪酸代謝異常症は、その貯蔵した脂肪からエネルギーを作り出す代謝過程に障害がある病気です。このため空腹時、運動時や発熱時などで体がたくさんエネルギーを必要とする状態になるとエネルギー不足となり症状が現れます。多い症状は、けいれんや意識障害です。脂肪酸代謝異常症の症状は個人差がありますが、タンデムマス法によって早期に検査を行って治療し管理すれば発症を未然に防止することができます。
○中鎖アシルCoA脱水素酸素欠損症(MCAD欠損症)
○極長鎖アシルCoA脱水素酸素欠損症(VLCAD欠損症)
○三頭酵素/長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酸素欠損症(TFP/LCHAD欠損症)
○カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1欠損症(CPT1欠損症)
○カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-2欠損症(CPT2欠損症)

4.ガラクトース代謝異常症
 食べ物から摂った糖質は体内で分解・吸収されますが、この代謝される過程で必要な酵素の働きに障害があるため、ガラクトースなどが代謝されずに蓄積してしまう病気をガラクトース血症と言います。症状は嘔吐や下痢などの消化器症状、体重増加不良、肝脾腫や黄疸のほか白内障が起こる場合があります。身体の発育の遅れ、知能障害、また肝障害や敗血症を引き起こす重症型もありますが、生後、一時的にガラクトース値が高くなっても経過とともに低くなる例も多く見られます。検査は血液中のガラクトースを測定しています。検査を受けることで病気を早期に発見し、ガラクトースを含まない特殊ミルクを飲む等の治療を行えば発症を未然に防止することができます。

 

内分泌疾患(ホルモンの異常)対象2疾患

1.先天性甲状腺機能低下症
 甲状腺は体の代謝を調節するために大切な甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは生後の成長、発育に特に重要でこれが不足すると知能障害を引き起こします。この病気は、甲状腺が正常の場所にない、形が完全ではない、甲状腺そのものがなかったりするために甲状腺ホルモンが分泌されない病気です。しかし、血液中のTSHという物質を測定して早く病気を発見し、治療を開始し管理すれば発育の遅れなどの発症を未然に防止することができます。

2.先天性副腎過形成症
 この病気は体の中の副腎という臓器で、性ホルモンや生命を維持するために必要なホルモンが作られる過程において、必要な酵素に障害がある病気です。このため女の子が男の子に間違われたり、脱水をおこすこともあります。スクリーニング検査は、血液中の17-OHPという物質を測定して早く病気を発見し、治療を開始することで性別の誤認や脱水などの重い急性症状を未然に防止するための検査です。

 

遺伝子の検査 対象2疾患

1.重症複合免疫不全症
 人は体の中に細菌やウイルスなどが入ると、それから守ろうと反応します。この働きを免疫といいます。免疫不全症は生まれつき免疫が働く遺伝子に変異があるために感染に対する抵抗力が低下する病気です。主な症状は風邪症状がなかなか治らない、発熱や下痢、肺炎などを繰り返し、時には命にかかわることもあります。また、予防接種の後に重い副反応を起こすこともあります。疾患や重症度によって治療法や経過が異なりますが、スクリーニング検査で早期に発見して治療をうけることが大切です。

2.脊髄性筋萎縮症
 運動神経や筋肉が育たずに全身の筋力の低下や筋肉の委縮が起こる進行性の病気のため、放っておくとどんどん症状が進行していきます。「座れない」「立てない」「立って歩けない」など程度はさまざまですが診断が難しく見逃されやすい病気です。生後すぐの検査によって早期発見が可能になり有効な治療を行うことで、発症や症状の進行を抑える可能性が期待できます。

 

検査の結果について

 検査の結果、もう一度採血をお願いして再検査を行うことがあります。これは再採血イコール病気ではなく、採血をした時の哺乳状況、赤ちゃんの状態、採血量が不足している、結果が一過性のものかなどいろいろな要因を確認するための採血です。また、もっと詳しい検査を行う必要があると判断される場合もあります。結果は採血した医療機関から連絡がありますので、きちんと確認するために必ず最後まで検査を受ける必要があります。検査の結果は母子手帳などに大切に保管しましょう。